策楽なつき

お空の果てから電波を飛ばしています

月が綺麗だから

 I love you.を夏目漱石は月が綺麗ですねと訳した。もしも同じ気持ちなら死んでもいいわと告げるらしい。(本当かどうかは知らんが)

 まぁ、私も言われたことがある。それは遊びの一環かもしれないし、本気だったのかもしれない。でも、「死んでもいいわ」なんて答えるのだ。そうしたらどうだろう。なぜか返しが伝わらないのだ。「死なないで」と言われる。いやいや、死ぬわけないじゃない。あ〜伝わんねぇ〜!なんて少し悲しい気持ちになるのはここだけの話。

 でも、月が綺麗だと死にたくなる気持ちが非常に理解できてしまってもどかしい。チキュウ気持ちわる〜。うわぁ〜まじでドン引き〜!みたいなことがあった時に、夜空に月や光の粒があると魅入ってしまう。あの綺麗なものに近づきたくて何処か高いところへ登りたくなってしまう。下を見ると雑多で混沌としていて嫌な世界が広がる。そんな狭くも広くもないところを見下ろしてあ〜私ってこんなところにいるんだぁ。なんて自嘲してしまう。

 ひんやりとした夜風がなんとなく心地よくて、光に群がる虫の気持ちがなんとなくわかってしまう帰り道。こういう時に一首素敵な歌を詠めたらいいんだけど。そう思いながら一歩、「吉」、二歩、「凶」、三歩、「大吉」と足占をする。少しだけ軽くなる足取り。ヒールの音が自然と下駄の音に塗り変わる。こうしてから上を見上げると少しだけ月の顔が変わって、より美しくなった気がする。

 建物も街灯も何もない場所でただ息をして。数秒間息を止めてみたり、その後に思いっきり呼吸をしたら生きていると感じてみたり、ただ頬を濡らしてみたり、口角を上げてみたり、どんなことをしても夜で満月の次の日じゃない限り君にはバレバレで。雑多があるからこそ自分の汚い部分を見なくてもいいのかも。なんて考えてみて。こんなことをしているからいつまで経っても大人になれないんだろうなぁ。照らしすぎる太陽は眩しすぎた。太陽の光のおこぼれのおこぼれをもらうくらいが私には丁度いいのかもしれない。