煉炭・首吊り・飛び込み・入水・薬・感電・飛び降り。
この中で一番殺人に見せられる死に方はどれだろう。そう考えた時、私は、飛び降りだと思った。靴を揃えず、遺書も書かなければ、誰かに殺されたフリができると思った。私はこの不条理な世界に殺されにいく。もし、殺されないで済むなら、殺されたくない。生きたいと思うほどこの世界は私に優しくなくて、かと言って優しさを享受できるほどの心の余裕なんてなくて、どうしたら良いか分からないから、考えなくてもいい方法を探した。そして、死というものに出会った。それは身近に息を潜めていた。今までの祖先、学校で習う歴史の授業、ミステリー小説。それは各場所に適切に収められていた。だから、私の今あるこの感情もきっと適切で正しい場所に保管されていると信じてみたかった。もしかしたらこの感情は私には少し早すぎたのかもしれない。そんな希望という名もなき毒を適切な量を体内に巡らせることができなかった。だから、生きている。だから、だから、息をしてしまう。
今日もまた屋上へと通う。朝。登校中、やけに気分が悪くて、靴を履き替えると階段を走って登った。目当てのドアの前、息が切れる。ここからこの助走を抱えたまま、この勢いのまま、飛び降りてしまえる気がした。
「今日は元気がいいご登場だことで」
目の前にはヒョロリといつものように立つ彼がいた。今日はこの助走のまま飛び降りようとしていたことなんて言えなくて愛想笑いをした。
「チョコ好き?」
「うん」
「あげる」
「いいの?」
「うん。疲れたろ?食えよ」
「ありがと」
口に含むと甘さがいっぱいに広がった。
「うまいか?」
「うん」
久しぶりに食べるチョコレートは美味しくて、甘くて、そして、鼻の奥がツンとした。目元を拭う。
「お腹すいてた?」
「うん」
「チョコ持ってきてて良かった」
「うん」
「美味かった?」
「うん」
「さっきからうんしか言わないじゃん」
「うん」
「今日、授業サボりませんか?」
「サボらない」
「さっきまでうんしか言わないから誘いに乗ってくれると思った」
「そこまで落ちぶれてない」
「そっか、もうそろそろで授業始まるってよ」
「わかった。じゃあ。またね」
「また明日」
同じような日々を歩む。美しさもなければ楽しみもない。ありふれた日常というものを感じている。